2012年3月19日月曜日

【日記】鉄拳さんの「振り子」

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迷ったらダメなんだな。人生の答えなんて、考えたって分かるものじゃない。ただ、そのときそのときを、ぎりぎり一杯生きている奴だけにその答えは見えてくるんじゃないだろうか。

/ 藤本義一



深夜に何気なくバラエティを見ていたら芸人の鉄拳さんがパラパラマンガを紹介していました。

鉄拳 振り子
http://www.youtube.com/watch?v=Bf9K6SXDkXU

これがもう素晴らしかったので自分なりに考察してみる日記です。
ネタバレするので、先に上記動画を見ておくことをオススメします。

以下ネタバレビュー↓








鉄拳さんは前からパラパラマンガで非凡な才能を見せていました。
僕が知っているのは以前の作品は2作で、

【パラパラ漫画】 鉄拳 「ツナガル」
http://www.youtube.com/watch?v=0KXh3Eh_7n4

2011.09.11-鉄拳.絆パラパラ漫畫
http://www.youtube.com/watch?v=nySTBTZHs7o

の二つです。「振り子」は上記に続く三作目。
二作目の「絆」も話題になりましたね。

ここまでのリンクを全部見て頂いた方は判るかと思いますが、二人のカップルの人生を追いかける、という点で「振り子」は「絆」にそっくりです。



実は「絆」「振り子」に似た演出の動画は他にもあります。

"love elevator" wisut ponnimit
http://www.youtube.com/watch?v=8vfAxSKAnio

東芝 TOSHIBA CM LED電球 「10年カレンダー」篇 120秒
http://www.youtube.com/watch?v=ZzNzLg3JjfE

「love elevator」「10年カレンダー」
そして鉄拳さんの「絆」「振り子」。
全て「一部づつを見せる形でカップル(家族)の長い人生を描く」という手法をとっています。個人的にはどれも素晴らしいと思っています。



その中で「振り子」は最後発です。
僕は最初この動画を見た時「あーまたこの『人生系の泣かせ系か』」と思いました。
というか、そもそも「絆」とそっくりだった訳ですから。前回の成功体験で味をしめてまた同じようなヤツを作っちゃったなー、と思ったんです。

それは大きな間違いでした。
……たぶん。



ここでもう一度最初の「振り子」の動画のリンクを。

鉄拳 振り子
http://www.youtube.com/watch?v=Bf9K6SXDkXU

くどいですね。まあご勘弁を。
まずこの動画、振り子の左右で場面転換を行っている事が判ります。

 「ほほー、そういう演出の工夫をしてきたか」

僕はそう思います。で、次に思うのは

 「でも、中身はやっぱり人生感動系だよね」

と思う訳です。今回は技術的なアプローチの新しさで攻めてきたな、と。
で、途中で全画面になります。

 「あ、やっぱり全部通すには無理があるのかな?」

と思います。でも振り子に戻ります。
そんな事を繰り返しながら二人の人生は描かれていきます。あとで振り返ってようやく判ったんですが、このアニメは振り子のように揺り動く事で出来ています。

二人にはイイ事も悪い事もあって、辛い事も苦しい事もある。
二人は人生の振り子に翻弄されながら、やがて老いていく。
演出も「振り子」と「通常画面」を行ったり来たりします。
短い中に人生を織り込んだ描写も素晴らしく、飽きさせません。

やがて長い年月が経過。
アイマイになった妻をつれて男は海に行きます。
辛い事や哀しい事を経て、二人は崖の上に立ちます。
ここはもしかしたら自殺の暗喩かもしれませんが、よくわかりません。

妻の頭には、若い頃には着せてあげる事の出来なかったヴェール。
カメラが不自然に左右に揺れます。
ここでは観客が「振り子」に乗って彼らを見ています。
なんという徹底ぶり。

そして男の驚愕の行動。
演出上の道具にしか過ぎなかった振り子を止めようとします。妻を幸せに出来なかった事を悔い、時間を止めてしまおうとします。登場人物が物語の進行を拒否するメタ表現。「次のページ=時間の進行」というパラパラ漫画の否定。

やがて夫を妻がなだめます。
諭され、穏やかになる夫。

さらに年月が進みます。
二人は天に召され、若い頃の姿になって再び結ばれます。



夫が時間を止めようとした時に妻に説得させた部分は「人生は振り子のようである」というメッセージだと僕は解釈しました。良い事や悪い事を行ったり来たりしながら、時間は不可逆である、だからこそ二人は出会え、ここまでこられた。振り子を否定することは二人の人生を否定する事にも繋がる。だから妻は進む事を選んだ。言葉にすると陳腐ですが、まあそんな感じです。

カップルの人生を描いているのを見て、最初は「どうして同じようなテーマにしちゃったんだろう?」と思いました。繰り返されるとネタは陳腐化することは芸人であれば誰でも知っている事です。

でも、多分、鉄拳さんは描かずには居られなかったんでしょう。
「絆」で描かれた穏やかな人生とは対照的に、苦しみに抗う二人の姿を。

確かに「振り子」は他の作品に似たところを多く持つ作品です。テレビでは紙にシコシコ描いている様子が描かれていましたが、音楽を含めた構成があまりにも緻密だったので多分デジタルで作ってるんじゃないかなーと思ったりもしました。

ですがそうした疑問や不満以上に、多層的な構造によって傑作になっている事が素晴らしい、と僕は思う訳です。


鉄拳さんの次の作品に期待しております。


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