ビックバンハピネスな日になりました。
/ 中川翔子
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多方向からのリクエストがあったので、前回の日記
【シナリオ】塔の上のラプンツェル(タイムチャート)
http://ameblo.jp/yokota6/entry-11049843198.html
の続きを書きます。
今日はラプンツェルのどこがスゴイか。
※ネタバレあり&見てない人には判らないのでご注意を。
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ラプンツェルのストーリー構成を簡単に書くと、
・魔女に幽閉された王女
→男と出会い、塔から逃げ出して街に行く。
→魔女に捕まる。
→男が助ける。
こんな感じです。場所の移動もあまりしていないですし、今はやりのビックリ要素や複雑なストーリーラインはありません。場所も二カ所を行ったり来たりしているだけです。
要は「王女が白馬の王子に救われる」というスタンダードな骨格で、ここに何のヒネリも無い。王女は純粋で美しく、魔女は悪の権化です(王子はちょっとヒネていますが)。
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オリジナルのラプンツェルはもう少し(というかかなり)暗い話です。
ラプンツェル - Wikipedia
http://bit.ly/owwMJA
ディズニーの「塔の上のラプンツェル」との違う点で重要なのは以下のポイント。
・魔法の花(ラプンツェル)は魔女の所有物である。
・生まれた子供(ラプンツェル)を魔女が持って行く事は
事前に契約されている。
つまり魔女が大した悪人としては描かれていないのです。というか魔女にしてみれば「ちゃんと話したよ!」って気分でイッパイで。
それが映画になると「魔法の花は公共の所有物」であり、「ラプンツェルを誘拐する事」は契約されていません。一方的に魔女に非がある事になっています。
なんていうか「魔女が悪い」っていうシンプルな構成です。
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こうした暗さが取り除かれている点を不満に思う方も多いかもしれません。というか、僕もそうなんですが。
たとえば、自分が「塔の上のラプンツェル」を描くとしたら、最後のシーンで「魔女の良心」を少し描きたくなります。一緒に長く暮らした事で娘への愛情が生まれてしまった魔女が「永遠の美」と「ラプンツェルに自由を与えたいキモチ」に挟まれて一瞬ためらう表情、そういうを描写を入れてしまうでしょう。
でも、そんなのは全然無い。
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という不満があったにもかかわらず「塔の上のラプンツェル」は面白かったんですね。
DVDでメイキングを見ると判るんですが、初期段階では「魔女の庭から魔法の花を盗む」というプロットだった事が判ります。しかし完成品ではその設定は削られ「魔法の花は野に咲く公共物である」という設定に書き換えられています。つまり徹底的に魔女を悪役にしたと。ディズニー版は、大人が喜びそうな複雑な構成を全部そぎ落としてる訳です。
そして、物語をここまで子供向けにしても万人に面白く出来る、というディズニーの自信・確信の表れでもあったように見えます(そしてそれは具現化されている)。
じゃあどこで面白くしているのか?
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まず一つは「強力なキャラクター」。
ここで言う「キャラクター」は設定じゃないです。性格。
「キャラクターを作る」というと本当に多くの人が設定を求めるんですが、ラプンツェルの設定は「幽閉された王女」「流浪の若者」「喪失の王室」……貧相、とまでは言いませんが、オーソドックス極まりないものです。
そうではなく本質的な意味でのキャラクター「その人ならではの振る舞い」がスゴイ。
ラプンツェルには印象的なシーンがいくつもあります。
まずラプンツェルが脱走した直後に、明るい→落ち込む→明るい→落ち込む……と、テンポ良く躁鬱を繰り返してクルクル変わる性格を見せるシーン。
また、ランタンを見終わった後にボートからユージーンが去る時の一瞬よぎる不安、それを抑え込む表情(どうやったらあんな繊細なフェイシャルを作れるのか!)。
普通に考えたら幽閉された王女なんて色白で病弱な女子しか考えられません。しかし、ラプンツェルは超現代的です。明るくて前向きで、ディズニーのヒロインに相応しい。複雑な心情描写をストーリーに頼らず、動きと表情だけで表す事で力強いキャラクターを生み出してる訳です。
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もう一つは「強力な演出」。
通常、映像作品というのは「シナリオ」→「撮影」→「音楽」→「編集」という流れで作られます。
しかし、ディズニー映画はミュージカル要素が強く、音楽と台詞、画面の切り替わりによる複雑な演出がなされています。昔から「こんな複雑な構成をどうやって作ってるんだろう?」と思っていたのですが、BDのメイキングを見てその謎が解けました。
メイキングではオープニングや「荒くれ者達の酒場」のシーンが大きく作り直されている説明がされています。その作り直す前のシーンですが、これがスゴクいいんですよね。「全然こっちでもいいよ!」って言うレベルで。
こうしたリビルドには「コスト」と「精神力」という二つの大きな問題があります。
リビルドするというのは時間と人的リソースが必要です。つまりお金(コスト)がかかると。普通の映画(ゲーム)を作っている人は「なんとか完成しました」という状態にもっていくだけで精一杯で、リビルドをする余裕なんて全くありません。
また、モノを作るという作業は脳内に思い描いた風景を取り出す作業です。しかし、あのレベルまで脳内で作りこんでしまった後に後に構成を破壊するのは本当に精神力が必要になります。
想像するに、ディズニーはこの一連の行程を何度もループさせる事をフォーマット化してるんじゃないでしょうか。一旦作って壊し、作って壊し、作って……ダメなディレクターが何度もリテイクするのとは違い、あらかじめ予定されたリビルド。
そうしたリビルド・ブラッシュアップをやる事を前提にしたワークフローで作る事ではじめてラプンツェルのような「強力な演出」が可能になるわけです(多分)。
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ということで「話は面白く無いのに体験は楽しい」という変わった映画「塔の上のラプンツェル」は最近見た映画の中では超オススメなのであります。
塔の上のラプンツェル DVD+ブルーレイセット
http://www.amazon.co.jp/gp/product/B004LKRQ84/ref=as_li_ss_tl?ie=UTF8&tag=bukkoro-22
ちなみに日本誤吹き替えをしている中川翔子はとても自然で良い演技でした。途中でショコタンを忘れるレベル。
http://news.walkerplus.com/2011/0302/20/
原作が気になる方はこちらもどうぞ。
青空文庫 ラプンツェル
http://www.aozora.gr.jp/cards/001091/card42309.html
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2011年10月29日土曜日
【シナリオ】「塔の上のラプンツェル」考察その2
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